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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)5636号 判決

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、原告訴訟代理人は、「被告会社を解散する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

(一)、被告会社は、不動産の売買、賃貸等を目的として昭和三二年六月二〇日設立された、発行済株式数一八、〇〇〇株の株式会社である。

(二)、原告は被告会社の株式七、〇〇〇株を有する株主である。すなわち、被告会社は訴外日本毛糸株式会社(以下「日本毛糸」という。)の簿外資産により設立されたもので、その株式はすべて、日本毛糸を共同で経営し、その実質株主であつた原告、訴外本間英夫(原告の兄、以下「英夫」という。)、同本間幸雄(原告の弟、以下「幸雄」という。)、同佐野嘉作(原告の姉佐野妙子の夫、以下「佐野」という。)、同渡辺雅博(原告の妹渡辺公子の夫、以下「渡辺」という。)の五名の共有に属していたところ、昭和三六年一二月五日、右五名の間で、被告会社の株式一八、〇〇〇株を原告および英夫に各九、〇〇〇株宛分配する旨の合意が成立し、原告は被告会社の株式九、〇〇〇株を取得しそれに対応する株式申込証拠金領収証を交付されたが、その後昭和三七年はじめ頃、原告は右株式のうち二、〇〇〇株を英夫の所有する土地と交換したので、その所有株式数は七、〇〇〇株となつたものである。

(三)、1 被告会社は、原告、英夫、幸雄、佐野、渡辺の五名が昭和二五年以来共同で経営してきた日本毛糸の簿外資産の保有増殖をはかる目的で設立されたものであるが、当初より従業員は一人もおかず、専ら藤沢市在住の土地ブローカー伊藤幸三郎に委任して不動産の売買を行つてきたところ、昭和三六年二月、日本毛糸が脱税容疑で国税庁の査察を受け、同会社の支配下にあつた被告会社ほか六社の資産内容も明らかにされたので、それを機会に、右五名は、実質上同人らの共有に属する日本毛糸およびその支配下にある会社の資産を各人に分配することとなり、以後、被告会社は不動産の買入れは行わず、それまでに取得した不動産を所有したままその営業を事実上停止した。

2 そして、被告会社の株式は、前述の経過により原告が七、〇〇〇株、英夫が一一、〇〇〇株所有することになつたので、同会社の資産は事実上原告および英夫の共有するところとなり、以後被告会社は、いわば右両名の共有財産管理のための株式会社として存続してきた。

3 しかるに、英夫は、被告会社資産の独占をはかり、たまたま同会社の代表者印を預つていたことを奇貨として、ほしいままに、昭和三七年七月六日、同会社所有の東京都渋谷区代々木一丁目三三番地の四、宅地六坪一合七勺(二〇・三九平方メートル)および同地上の木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗を、訴外三品登世子に売却したのをはじめ、昭和三九年四月二〇日頃には、同会社所有の別紙目録記載の土地の所有名義を自己の妻の弟である長谷川保に移転するなど、次々と被告会社所有の不動産を処分し、あるいは隠匿のために仮装譲渡をした。そのため、現在被告会社には、同会社名義の積極財産はまつたくなく、負債として東京都に対する租税債務八〇〇万円余があるのみである。

4 しかも、現在の被告会社の代表者は幸雄であるが、同人は被告会社の経営に関与したことはまつたくなく、単なる名義上の存在にすぎず、他の役員も同様であり、また、株主である原告と英夫との間には抜き難い不信の念があるので、今後被告会社が正常な業務を再開する見込みはまつたくない。

5 以上のように、被告会社の営業はまつたく停頓してしまい、加えて株主である原告と英夫とが対立しているため、その業務の執行は著しい難局に逢着し、会社に回復し難い損害が生じており、あるいはまた会社財産の管理が著しく失当で会社の存立を危殆ならしめる状況にあるところ、取締役の行為の差止請求、代表訴訟等商法上少数株主に対して認められている諸種の手続によつてこれを打開することはきわめて困難であり、また、原告と英夫の持株の比率からみて、株主総会において解散決議をえる見込みもない。

(四)、よつて、請求の趣旨記載の判決を求める。

二、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁および主張として次のとおり述べた。

(一)、請求原因(一)の事実は認める。

(二)、同(二)の事実中、被告会社が日本毛糸の簿外資産により設立されたこと、原告と英夫、幸雄、佐野、および渡辺との各間柄が原告主張のとおりであることは認めるが、その余は否認する。

原告は被告会社の株主ではない。被告会社の株式はすべて日本毛糸の所有である。すなわち、日本毛糸は、その簿外資産により設立された訴外日本商事株式会社の全株式を昭和三二年三月訴外小田急電鉄株式会社に売却したが、その代金の一部九〇〇万円を資本金として被告会社を設立することとし、他人名義を用いて被告会社の全株式を引き受け、右九〇〇万円をもつてその払込みをしたのであつて、右九〇〇万円が日本毛糸の資産であることはいうまでもなく、また他人名義を用いて株式の引受・払込をした場合、株主となるのは名義貸与者ではなく実質上の引受人であるから、被告会社の株式はすべて日本毛糸の所有である。そして、原告主張の株式分配の合意がなされたことはない。同主張の株式申込証拠金領収証は原告が日本毛糸本社の金庫からこれを盗取したものである。

仮に、昭和三六年一二月五日、原告主張の株式分配の合意が成立したとしても、

1  右に述べたとおり、被告会社の全株式は日本毛糸の所有であるから、原告が被告会社の株式九、〇〇〇株を取得する旨の右合意は、原告において日本毛糸から右株式九、〇〇〇株を譲り受けることを意味するものというべきところ、原告は右合意の当時日本毛糸の取締役であつたから、右株式譲受けについては日本毛糸の取締役会の承認を受けなければならないのに、これを受けていない。したがつて、原告が被告会社の株式を取得する旨の右合意は商法第二六五条に違反し、無効である。

2  右主張が理由がないとしても、被告会社はその株式につきいまだ株券を発行しておらず、株券発行前になされた株式の譲渡は会社に対してその効力を生じないから、原告主張の株式の譲渡は被告会社に対しその効力を生じない。

3  仮に、右譲受けの効力を認むべきものとしても、原告は被告会社に対しその権利を認むべきものとしても、原告は被告会社に対しその権利を証明して名義書換の請求をしていないし、もとより名義書換も受けていない。従つて被告に対し株主権を行使できない。

4  以上の主張が理由がないとしても、原告は、日本毛糸に対し二、二三八万円の債務を負担していたところ、昭和三九年八月一日、日本毛糸との間で、右債務の支払いに代えて原告主張の合意により取得した被告会社の株式をすべて日本毛糸に譲渡する旨の契約をしたから、被告会社の株主たる地位を失つた。

(三)、1 同(三)1の事実中、原告主張の五名が日本毛糸の経営に当つてきたこと、被告会社が日本毛糸の簿外資産の保育増殖をはかる目的で設立されたものであること、昭和三六年二月日本毛糸が国税庁の査察を受けたこと、それを機会に原告主張の五名が日本毛糸およびその支配下にある会社の資産を各人に分配することになつたこと、は認める。

2 同(三)2の事実は否認する。

3 同(三)3の事実中、英夫が原告主張の頃被告会社所有の別紙目録記載の土地の所有名義を自己の妻の弟である長谷川保に移転したことは認める。これは、訴外日本商事株式会社が訴外亡長谷川歓二に対し二、〇〇〇万円の借入金債務を負担していたところ、前記のとおり被告会社は、右訴外会社の全株式を売却した代金で設立されたもので、いわば右会社の後身ともいうべく、事実上右会社の権利義務を承継していたので、被告会社において右長谷川の相続人である長谷川保に対し右債務の支払いに代えて前記土地を譲渡したものであり、決して仮装譲渡ではない。

4 同(三)4および5の主張は争う。

解散請求の訴えを提起し得るのは、商法第四〇六条の二第一項第一号または第二号に該当する場合であつて、しかも「已むことを得ざる事由あるとき」に限られ、取締役の解任ないし改選、取締役の行為の差止請求、代表訴訟などの方法で紛争を解決できる場合には解散請求を認め得ないところ、本件においては、原告が真実被告会社の株主であるか否かさえ確定されれば、右のような方法によるまでもなく、紛争を解決することも十分可能であるから、原告はまず、株主たる地位の確認もしくは株主名簿の書替えおよび株券の発行を請求して、被告会社の株主たる地位を確定すべきである。また、仮に原告主張のように、英夫に被告会社の資産をほしいままに処分した行為があつたとすれば、商法第二六六条、第二六七条により被告会社のために英夫に対する損害賠償請求の訴えを提起して、会社財産を回復する方法も開かれており、英夫にはこれに応えるべき十分な資産がある。したがつて、仮に原告が株主であるとしても、あえて被告会社を解散しなくても株主としての利益は保護されうるのであつて、同会社を解散することが会社および株主の利益を正当に保護することになるとはいい得ない。これを要するに、本件請求については前記の「已むことを得ざる事由」は存しないというべきである。

三、原告訴訟代理人は、「被告の主張事実中、被告会社がその株式につきいまだ株券を発行していないことは認めるが、その余の主張はすべて争う。仮に、原告が昭和三九年八月一日被告主張のような株式譲渡の意思表示をしたとしても、被告会社の株式についてはいまだ株券は発行されていないが、株式申込証拠金領収証は発行されており、これは株券に代わるものである(しかも本件においては、原告と英夫との間で右領収証をもつて株券に代える旨の合意があつたものである。)から、同会社の株式を譲渡するには譲渡の意思表示のほかに右領収証の交付を必要とし、その交付がない限り株式移転の効力を生じないというべきところ、原告は日本毛糸に対し右領収証を交付せず現に所持したままであるから、原告から日本毛糸への株式の移転は効力を生じていない。」と述べた。

四、被告訴訟代理人は、「原告の主張事実中、被告会社の株券がいまだ発行されていないことは認めるが、その余は争う。株券発行前の株式は意思表示のみによつて移転し得るものというべく、たとえ原告が被告会社の株式申込証拠金領収証を日本毛糸に交付していないとしても、これにより被告主張の株式譲渡契約が無効となるものではない。」と述べた。

五、証拠(省略)

理由

一、被告会社が不動産の売買・賃貸等を目的として昭和三二年六月二〇日設立された発行済株式総数一八、〇〇〇株の株式会社であることは当事者間に争いがない。

二、そこで原告が被告会社の株主であるか否かについて判断する。

(一)、まず、被告会社設立当時における株式の帰属について検討する。

いずれも成立に争いのない甲第二号証、第三号証の一ないし四八、証人渡辺雅博、本間英夫、佐野嘉作の各証言、原告および被告会社代表者各本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨に右の争いのない事実を総合すると、被告会社は昭和三二年六月二〇日資本金九〇〇万円で設立された株式会社で、訴外吉川喜芳ほか九〇名の者が設立に際して発行された株式一八、〇〇〇株を引き受けこれを払い込んだ形になつているが、これらの者は単なる名義貸与者にすぎず、実際には右九〇〇万円は、英夫において、日本毛糸の簿外資産により設立された日本商事株式会社の株式(この株式は日本毛糸に属していたと認められる。)および資産を他へ売却して取得した代金五、四〇〇万円の一部をもつてこれにあてたものであることが認められ、成立に争いのない甲第一七号証、証人本間英夫の証言および原告本人尋問の結果中右認定に抵触する部分は採用できず、他に右認定を動かすに足る証拠はない。右事実によれば、他に特段の事情のない限り、英夫において、日本毛糸のため、第三者の名義を借りて被告会社の株式の引受けおよび払込みをしたものと認めるべきであり、設立当時の株主は実質に従い日本毛糸であつたと認めるのが相当である。

もつとも、前掲各証拠のほか成立に争いのない甲第四号証を合わせ考えると、日本毛糸は、原告の兄である英夫がその妹渡辺公子とともに昭和二二年以来「青リボン」ないし「日本毛糸卸部」なる名称で経営してきた個人商店の営業の一切を承継して、昭和二五年七月に設立された株式会社であつて、右経営には、会社成立前から英夫の弟に当る原告および幸雄ならびに右公子の夫渡辺が参加し、また会社成立後は原告の姉妙子の夫佐野も加わつたこと(以上の身分関係については当事者間に争いがない。)、かようにして、日本毛糸は、英夫を中心として、原告、幸雄、渡辺、佐野を合わせた五名の同族によつて経営されてきたものであることが認められる。そして原告は右のような日本毛糸の実体を前提として、日本毛糸の資産により設立された被告会社の株式は右五名の共有に属すると主張するけれども、日本毛糸という会社関係を無視して直ちにこのように断ずるのは相当でない。前判示の日本毛糸の設立および経営に関する事情からすると、前記五名の権利は平等とは認め難いところ、被告会社の設立にあたり、これらの者の間で例えば株式の分配もしくは共有株式の持分についての合意など、被告会社の株式を各個人に属せしめるについて当然なさるべき協議がなされたというような事情は全く認められないのである。

以上によれば、被告会社の株式がその設立当時日本毛糸の出資に拘らず前記五名に属したと認めるべき特段の事情はなく、既述のように、右株式は日本毛糸に属したものというべきである。

(二)、次に右株式の移転について判断する。

1  前掲甲第四号証、いずれも成立に争いのない同第一八・第一九号証、証人渡辺雅博、本間英夫、佐野嘉作の各証言および原告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、英夫、原告、幸雄、渡辺および佐野は、前述のように、英夫を中心として共同で日本毛糸の経営に当つてきたが、昭和三六年二月右会社が脱税容疑で国税庁の査察を受け、同社の支配下にあつた被告会社ほか六社の資産内容も明らかにされたので、これを機会に同社の資産を右五名の間で分割する話がおこり、何回か協議を重ねた結果、昭和三六年一二月五日、右五名は同社の全資産を分割することとし、被告会社の株式一八、〇〇〇株については英夫および原告に各五割宛配分する旨の合意をしたことが認められる。もつとも、右各証拠によれば、昭和三六年一二月末頃渡辺が右合意を含む同月五日の協議の結果を書面に作成し関係者に示したところ、佐野を除く英夫、原告、幸雄はこれに署名押印しなかつたことが認められるけれども、前認定に供した各証拠のほか成立に争いのない乙第一号証によれば、その後の経過においても右合意の成立したことを前提として折衝が進められていることが認められるので、右の事実は何ら前記認定の妨げとなるものではなく、他に前記認定を動かすに足る証拠はない。

2  次に前掲甲第四号証、第一八・第一九号証、成立に争いのない乙第一ないし第三号証、第七号証と前掲各証人の証言を総合すると、右五者間の合意において、日本毛糸から原告および英夫に対し被告会社の株式を譲渡するために、被告会社の株券を発行し、これを分配することが予定されていたに拘らず、これらの手続はふまれることなく推移し、昭和三七年に入ると、原告が別に不動産を取得するかわりに、被告会社の株式の保有割合を原告が一八分の七、英夫が一八分の一一に改めることとする旨の合意が右両者間に成立したこと、さらに、被告会社の資産は藤沢市所在の七筆の土地であつたので、原告と英夫は前記五者間の合意に基づきこれらの土地を分割することとし、昭和三七年一一月には具体的な取決めも成立したが、この間、英夫および原告が右五者間の合意に基づく資産分割の実行をしないことに不満を抱いていた佐野および渡辺は、当時佐野が登記簿上被告会社の代表取締役であつたのを利用して、会社所有の土地を第三者所有名義に変更したことが判明したので、原告は昭和三八年はじめ頃から土地の分配に代えて二、〇〇〇万円を支払うことを要求するに至つたこと、一方原告は、前記資産分割の協議に基づき、新会社を設立して日本毛糸大阪営業所の営業を引継ぐことになつたが、右引継ぎに伴う従前の営業損益の清算にあたり、日本毛糸の代表取締役であつた英夫は、同営業所の簿外預金のうち、正規の勘定に組み入れられていなかつた約二、〇〇〇万円を同営業所の責任者であつた原告において日本毛糸に支払うべきことを求めていたところ、結局昭和三九年八月日本毛糸の代表取締役の地位を有する英夫と原告との間に、原告は日本毛糸に対する右約二、〇〇〇万円の債務の支払いに代えて、前記五者間の資産分割の契約に基づく被告会社に関する権利をすべて日本毛糸に譲渡することを約したことが認められる。原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし採用できず、他にこれを動かすに足る証拠はない。

3  以上に認定した事実に基づいて考えるに、前記五者間の合意の実行方法として、被告会社関係については、本来日本毛糸から同会社保有の株式を原告および英夫に対し右合意による割合に従い譲渡すべきところ、右両名は被告会社の資産(土地)を右の割合に応じ分配することを重視し、専らこの点の協議が重ねられ、株式の譲渡は等閑視されたまま推移し、結局前記五者間の合意に拘わらず株式の譲渡は行われないままとなつたのではないかとの疑いがないでもなく、また、原告本人は、前記五者間の合意の成立した昭和三六年一二月五日に株式が譲渡され、株券に代わる株式申込証拠金領収証の交付を受けた旨供述するけれども、右供述中譲渡の時期に関する部分は前判示の五者間の合意に基づく書面作成当時の事情(前記(二)の1)および証人本間英夫の証言に照らしたやすく肯認し難い。かように、原告主張の株式譲受の事実については的確な証拠を欠く嫌があるけれども、前掲甲第三号証の一ないし四八(株式申込証拠金領収証)が原告の手中にあることは弁論の経過から明らかなところであり、この事実は格別の事情のない限り、その時期はともかくとして原告主張の株式の譲渡がなされたことを推認させるに足るものである。ところで、被告は、右領収証は日本毛糸本社の金庫から盗取された旨主張し、証人本間英夫および被告会社代表者はこれにそう供述をするのであるが、前掲乙第七号証および証人渡辺雅博の証言によると、前記五者間の合意の成立した昭和三六年一二月当時の日本毛糸の代表取締役は原告と渡辺であり、その後同三七年三月二九日渡辺は代表取締役を退任し、英夫が代表取締役となつたが、原告は英夫との間に紛争を生じて代表取締役を退いた昭和三九年五月一日まではその地位にあり、前記合意の成立後程なく渡辺とは不和となつたが、英夫とは右紛争に至るまでは相協調する立場にあつたことが認められ、右合意成立後昭和三九年五月までの間は、原告において前記領収証を盗取するようなことをあえてするまでもなく、円満に株式の譲渡およびこれに伴う右領収証の交付を受けうる機会は十分にあつたものと考えられるので、前記本間証人および被告会社代表者の供述は直ちに採用できず、他に前記株式譲渡の事実を推認する妨げとなる格別の事情は認められない。

よつて、原告主張の株式譲渡の事実はこれを肯認すべきであるけれども、その効力については、被告の指摘する日本毛糸の取締役会の承認の点を別としても、被告会社の株券がいまだ発行されていないことは当事者間に争いがないから、右の譲渡は被告会社に対し効力を生じないと解するほかはない。

三、以上の次第であるから、原告は被告会社に対しその株主であることを主張できず、商法第四〇六条の二第一項に定める適格を欠くといわざるをえないから、本訴を不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

別紙

目録

一、藤沢市鵠沼字下藤ケ谷七、三四五番三

山林  三畝一〇歩(三三〇・五七平方メートル)

二、同所七、四一四番三五

宅地  四三三坪(一、四三一・四〇平方メートル)

三、同市鵠沼字下〓五、三三七番一

宅地  四〇一坪六合一勺(一、三二七・六三平方メートル)

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